こちらの記事↓で書いたように、自分のやるべきことがはっきりしていたら勉強する教材は生成AIが永遠と用意してくれる時代になりました。

2021年度から1人1台端末(タブレットと通信環境)がほぼすべての小中学校で整えられ、家庭のネット環境も96.0%(下記記事参照)などと言われるぐらいになっているので、そうなると、理論上は「勉強は誰でもどんどん進められるようになった」ということになります。こうなると、「勉強をどんどん進められる人は進めていき、勉強に気持ちや行動が向かない人はどんどん進めない方向に沼っていく」という状態になっていきます。

※今の「格差」は経済的な事情や環境による影響が強い格差社会だと思いますが、「自分次第で変えられるはずだったのにやらなかったその人が悪い」などの自己責任だけを盾にできる格差社会の変容を予感させます。実は「自分次第」に見ようとしているだけで、環境から受ける影響は一様ではなくそのスタートラインが揃っているわけではないので、本当のところは「自分次第」でも何でもありません。しかし、その見えにくい部分、分かりにくいものは無いものとされるのもまた今に顕著な特性なので、見えている部分、分かりやすい部分だけで判断されて流れができてしまいます。そして、その判断が頑張ろうとする心すら折ってしまうわけですが、それは別の話ですね。話を戻します。
※ちなみに、(理論上)と書いたのは、そんなに人間は正しく動かないよ、という話です。安くで分かりやすい神授業とか言ってた「スタディサプリ」が売却に向かい「塾や学校では使いこなされなかった」と言われているのがその証左ですし、そこに誰がどうアプローチするのか、それに社会がどう価値を感じるのかがこの記事の鍵ですね。
「スタディサプリ売却、リクルートの誤算 塾現場「生徒なかなか見ない」 – 日本経済新聞」
ともあれ、そんな時代に突入していく中で「塾」に来る人はどんな人でしょうか。何を求めているのでしょうか、そして「塾」は何をしてくれるところなのでしょうか。そのあたりを改めて考えてみたいと思います。(ここで言う塾は、オフラインの実際に通うタイプの塾を想定して話をしています)
完全個別と、少人数個別、集団授業の塾では少し役割は変わりそうですが、
まずは、塾に求められるものをざっと整理してみましょう。
考える手がかりとして、塾や予備校などの広告に載せられている文言を使っていきます。
塾のアピールポイント
1.分かりやすく数字で示せる成果
まず、塾でも予備校でも学校でも、古からアピールに使われているのは「確実な実績」です。
最も分かりやすいのは進学実績ですね。これは、進学先の権威(偏差値的なすごさ)を借りれますし、人数が数字で示されることによって納得感も増します。ということで、昔からの塾だけではなく学校も、今や通信制高校でさえも結局その分かりやすい権威にすがるようなアピールを見せています。(通信制高校も結局同じかーと個人的には、がっかりというか、しょーもないというか、ですが)。。
同じような数字で表せる実績として、「志望校の合格実績」や「偏差値や試験、成績の向上数値」、「生徒の在籍数や増加数」などがあります。
ともあれ、これは塾が行った活動による数字上の実績です。数字上のお話なので、どの数字を出すか(=どの数字が魅力的に見えるか)の“見せ方”次第な側面や、どのように数字を作るかの“造り方”の話など、テクニカルな部分にもちらほら聞こえてきます。私がしょーもないと思ってしまうのは、最も外側の見えやすい部分を運営側でやりくりすることと、生徒自身の成長にどこまで焦点が当てられるのかということが、あまり一致していないような印象を受けてしまうところからきているのかもしれません。
2.その数値を出すために必要なもの
見せ方や造り方は一旦置いておいて、真っ当に実績を出せている根拠として、「指導の技術」とか「最新の情報」とかをアピールする方向があります。
「数値を上げる情報」の具体例としては「入試問題の傾向を分析」したり「学校の定期テストや内申点の対策法」を持っていたりです。地道にその学校、各先生の定期テストの過去問を先輩たちから集めてストックしているような地域密着型の塾などもあります。
また、「指導の技術」をアピールする方向では「プロ」という言葉で「学生バイトではない」ことを示したり、講師をタレント化させることで「人気のある(知名度のある)講師=すごい講師」など権威を作る方向の動きもここに入ります。
「成績が上がりそう」を後押しする現物やイメージの武器を見てきましたが、もっとフワッとしたものに頼るアプローチもあります。それは、資本力のある大手が取る「客側に(勝手に)期待させる」方法です。これは具体的な実績を上げる根拠とは言えないですが、「有名人をアンバサダーに据える」ことで良いイメージを持たせたり、「まだ見ぬ私と出会え」みたいな抽象的なキャッチコピーで未来を期待させるような方法もよく見られます。これはある程度名前の通っている塾や予備校でないと通用しないアプローチです。
3.最近流行りの個別で丁寧なイメージ
少子化になって生徒数の減少に合わせるように、「少人数指導」や「個別指導」を取り入れる塾も増えています。小中学校の児童生徒の約4%が不登校であることや、小中学生の8.8%が発達障害の可能性があると言われ、多様性が叫ばれる中「誰一人取り残されない」と打ち出す社会の状況を考えると、「生徒別の対応」が求められるのは当然の流れでしょう。
具体的には、「苦手分野のフォロー」「学習者に合わせた進度」「性格に合う講師の選定」「メンタルの安定を狙ったコミュニケーション」「モチベーション維持の方策」「部活や体調などの欠席対応(振替授業)」「日によってオンライン対応が可能か」などなど。それぞれの塾ができる部分をアピールしています。(これらのどこをどれぐらいアピールできるかによって塾同士の差別化もできるかもしれませんが、なかなかに分かりにくい領域での差別化(マッチング方法)になってしまうので有効打になるかどうかで言うと難しいかもしれません)
また、「2:実績の根拠」でも出てきた、「プロ」や「経験豊富」などの文言も、塾の打ち出しや形態に合わせた属人性のアピールとして、「それであれば一人ひとりの生徒に合わせてもらえるかもしれない」という期待感を高めることに繋がります。
4.整った環境
人は、一人で頑張り続けることは難しいため、その頑張りをサポートできる何かがあることも立派なアピールポイントになります。「学習を着実に進められる管理」や「学習を進められる良好な環境」などがそれに当たります。
「進捗の見える化」「提出物のチェック」の方法や仕組みの有無、「個人の学習スケジュール」の作成によって道筋を明らかにすること、「生徒同士の競争」はあからさまなものはあまり見かけなくなりましたが、「お互いに頑張っている仲間」の存在も大事な要素です。これらのサボりにくい仕組みがどう作られているのかや、「集中できる自習室」や「整理整頓された教室」、「駅から近く通いやすい立地」など言い訳を減らす環境などよく見られる角度です。
ここまでくると、「3:個別の対応」と合わせて、「教育とは誰をどこまで迎えに行くべきなのか」という難しい問題を考えざるを得ないぐらいになっていますが、そうしないと生徒が集まらないと思われるため、どんどん“快適な”学習環境が整えられています。
5:充実の保護者対応
また、生徒のみならず保護者へのケアも力が入れられている領域です。「定期的な三者面談・保護者面談」をはじめ、「塾での学習進捗の共有」、「家での生徒への関わりのアドバイス」、「進学説明会などの保護者向けの会合」「保護者からのリクエストやアンケートの実施」などなど、密な連携も行われています。
6:利用料の安さ
そして、最も分かりやすいのが費用です。「料金プランの明確さ」や「費用対効果の高さ」、「教材費など諸費用の妥当性」など、保護者の納得感は利用を決める際の大きな要素となります。
情報社会における塾の在り方
教材を考える
冒頭でも触れましたが、AIが身近になりすぎた結果、「自分に合わせた教材」の価値は少しずつ薄まっていくと思われます。
例えば、各教科の学ぶべき単元が分かっていれば(登るべきスモールステップが整理されていれば)、AIに入力すれば「学習項目の解説」もしてくれるでしょうし、「確認テストの作成、解説」もしてくれます。また、説明や解説が理解できなければ、「もう少し易しい言葉で」とか「小学〇年生でも分かるように」など追加で指示していけば、簡単な言葉で嚙み砕いて解説してくれます。また、自分で指示した内容がアウトプットされるので読もうという意識も底上げされるオマケ付きです。
「各教科の学ぶべき単元が分からない」という人も、教科書の目次も使えますし、手元に教科書などの教材が無い場合でもネット上にもたくさん転がっているので問題ありません。「高校 生物 単元 一覧」など校種や科目名に「単元 一覧」で検索すれば公的なものから塾・予備校などが公表している資料がたくさん出てきます。また、教科書をAIに読み込ませることも、個人利用であれば著作権的には問題はないというのが2026年10月現在の考え方のようなので、その教材を基にして順番に学んでいくことも可能です。
「AIでは正確な情報が得られない」という反論もあるでしょうが、すべてを正しい認識で学べるものでもないですし、同じ指示でも日によってアウトプットが違うのがAIです。それを分かった上で、おかしなところに気付けば改めて調べて確定させる、ことを意識しながら進められればだいぶ危うさは軽減されます。それどころか、情報を疑いつつ何が真実かを意識しながら知識を獲得するスタンスは、この先ぜひとも身に付けておきたい姿勢でもあります。
とはいえ、「勉強だけでも大変なのにあれこれ考えながらとか無理」という意見もごもっともです。そこまではさすがに無理そうだという人も、知識が正確で、各学年ごとに各単元短く整理されて、ゲーム性を加えたような通信教材もいくつも生まれています。少し費用は掛かりますが、そちらの利用を検討することも良いでしょう。フワッとした目安ですが、小学生で約1万円/月、中学生で約1万5千円/月、高校生で約2万円/月ぐらいかと思います。
そうなると、最大でも教材としての価値はこれぐらいの価格なのかもしれません。
学習環境を考える
教材が用意できるレベルで、実際に勉強を進められるかどうかだけの問題であれば、環境を用意するだけで進められる可能性があります。
地域の図書館や、公民館などの自習室、街中や大きなモールなどの自由に使っていい机や椅子のある空間などを上手く使うことができれば、学習を進めることができるかもしれません。少子化、人口減少社会であるので、そういった使える場所も増えてくるかと思います。
他にも、少し費用をかけて、フードコートや喫茶店などで空いている時間に数時間利用させてもらうなどの手もありますが、提供された飲食によってあまり長いするのも気を使うなど、学習以外の部分で消耗してしまうことがあるかもしれません。個人店であれば、少しずつ関係性が近づいていろんな形で応援してもらえる、などもあるかもしれませんが、そういうのを求めるかどうかもまた学習者側のあれこれによるものでもあります。
本格的に安定して自分の場所を確保したいとなると、有料自習室の利用などになるでしょう。これも地域によって有無や価格の幅が大きいため、お近くの有料自習室を調べてみてください。
塾として生き残る①:超大手の実績とブランド
あまりややこしいことを考えないで、取り敢えず信頼の実績、それによって作られたブランドイメージに頼る人はまだまだたくさんいるでしょう。いわゆる「安心を買う」というやつです。
これは高い知名度によって支えられるもので、「よく目にする=親近感がわく+検討の第一枠+大手だから滅多なことはしないだろう(他にも多く利用している人がいる)」という流れです。
在籍生徒の数が増えれば、その中でアピールできる進学先や成績をたたき出してくれる人は現れますので、情報が氾濫すればするほど「何が正しいか分からんから、大手に頼っておけばいいか」となり、小規模学習塾の厳しい状況を見ると、情報社会の中でますます盤石な体制と言えるでしょう。だからこそ、大手は吸収合併を繰り返して、その体制維持に努めているわけです。

大きなリスクの1つとして、少子化で人が減っていく中で、大きい運営会社を支えるだけの稼ぎをどこまで拡大、維持できるかどうかです。これも、行政委託はじめいろんな方法をそれぞれが模索しているように思います。
塾として生き残る②:超個別具体的な情報
上でも少し触れましたが、「〇〇中学校専門塾」などネットでは拾いきれないニッチでミクロでピンポイントの情報提供によって生き残る方向も存在しています。これは「〇〇中学校」校区のエリアを絞っているため、ここはそこまで大きな知名度は必要ありません。そのエリア限定での知名度だけでOKなので、その校区内に拠点を出せば、通学時に目についたり、それを見た人が学校で話題に挙げたりなど学校内での口コミで十分と言えるでしょう。
また、経営が1年以上続けば、その学校の「○○先生の△△の教科の過去問」が手に入り、その問題傾向への対策も立てられるため、ますます「〇〇中学校専門塾」という名前に偽りなしの効果を発揮していくでしょう。
リスクは、「定期テストの成績だけが上がればいいのか?」という疑問が教育界に広まっていった場合に魅力を損なう可能性がありますが、どんどん余裕がなくなってきている世の中なので、そこまで広い視野が広まるのはまだしばらくかかるかと思われます。
また、学校側の効率化で定期テストの問題をAI出力をベースにするなど属人性が薄まっていくと、「○○中学校専門」でなくてもいいのではないか?となって、①のようなところに流れていく可能性もあるでしょう。
ニッチでミクロでピンポイントな領域に絞ると言っても、「ネットで拾いきれない」が大事です。「リアルで土着な領域」であるから商機があるわけで、「△△資格取得」などの専門的なノウハウでは生き残れる可能性が断然下がるでしょう。多くの受験生が居る資格の情報であればすでにネットに流れているでしょうし、まだネット上にそれほどノウハウが上がっていない、あまり受験生の多くない(ビジネスとして採算の合わない)資格であったとしても、その内容を分析した誰かがその情報をネット上に文字であれ動画であれ発信された時点でその情報の価値は下がるからです。ネットに情報が上がると、AI生成のピースになり、自力で勉強できる環境が整うため、塾として生きていくことはますます難しくなるでしょう。
塾として生き残る③:結局は人なのだけど
結局は「人」自体をアピールする方向しかないとは思われます。
講師側のポイントとしては、普通に教えるのが上手いなどでは物足りません。教える上手さは「教材の分かりやすさ」の部分で補完できるからです。そうなると、プラスαの何かが求められます。
それは「講師の人間性・タレント性(キャラクター)」とか「講師の特殊スキル(学習者の学びや成長を促すための環境状況状態の把握やそれに対応できる手札の種類)」とか「学習者の相性や状態への適応」とか。その上で、担当となる講師との相性が合うかどうかは、結局ガチャになるため、そのガチャの精度を高めるための努力をするしかありません。大手の場合はこのあたりもたくさんの講師がいる=ガチャを回す労力が低いとなるため、個人でその相性に立ち向かうことは並半端なものでは検討の俎上にも上がれません。
また、生徒同士にしても、やはり大手の集客力による数の力に抗うことはとても難しい事です。講師ガチャと同じく、数による安心感があるためです。
その塾ならではの関係性を構築していく(もしくは塾全体の空気感を醸成していく)ことが求められるわけですが、そのためには、その塾が何を目指しているものかのスタンス(ビジョン)をはっきり分かりやすいものにするとともに、そのスタンスの中でそれぞれの生徒が良き関係を築ける者同士と認識しなければならないため、ハードルが多重に上がります。
特色も分かりやすいものでなければならないし、それが社会に伝える方法を持たなければなりません。いくら個人が発信できる時代といっても、多くの発信の中に埋もれてしまうのが関の山です。小規模、特に個人塾なら、関係者や協力者も集めにくく意図的にインプレッションを上げることも難しくなるためハードモードです。そうであるなら、「分かりやすい特色」を来てくれている生徒に伝え、つながりの中で地道に生徒を増やしていく昔ながらの方法か、講師のタレント性や特殊スキルによって+捨て身の行動で発信力を高めていく方法か、ぐらいしか手がないのかもしれません。
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