「ことば」第7回:同じ言葉でも意味が変わる?
前回は「言葉の意味は話の流れ次第だから、その機微も含めて楽しめるといいね」というお話をしていましたが、今回はその「言葉の意味は話の流れ次第」、文脈次第で言葉の意味が変わるということをつきつめて見ていきたい回になります。
「ことば」の講義では1文の中での話をしていますが、今回は複数の文も扱います。「国語(現代文)」では扱う時間が取れなさそうで、「話の流れで意味が変わる」ということを分かってもらうにはうってつけかと思いましたの今回はこれを取り上げてみようと思います。
状況によって変わることばの意味
さて、同じ言葉で全然違う意味になる言葉にはどんなものがあるでしょう?
いくつか例を挙げていくので、読んでいて「これもそうかな?」と思うフレーズなどがあればコメントに残してみてくださいね!
それでは、行きましょう!
その1:「ベスト」「ワースト」の意味
シチュエーション:デカ盛りで有名なお店にご飯を食べにやってきました。
友達A:「この店大食いタレントの〇〇さんがワースト1位に挙げてたらしいよ」
さて、この「ワースト1位」の単語帳的な意味は「最も悪い」ですが、この最も悪いというのは、①量が多すぎるという意味でしょうか、それとも②少なすぎるという意味でしょうか。
この一文だけだと「死ぬほど多い」とも「楽勝すぎるぐらい少ない」とも、どっちの意味でも読めますね。国語的には前後の文章があれば文脈でどっちの意味かが読み取れますが、今回は一文だけなので分かりませんね。
ただ、このような感情や感覚、立場で意味の変わる言葉の意味が分かると、その発言者の人間性や性格、考えなどが垣間見えます。この場合はこのタレントさんが大食いに対してどういうイメージを持っているかが見えそうです。すごく雑に推理すると、本人が大食いに対して楽しんでいれば「量が少なくて残念」という意味になるでしょうし、無感情のお仕事感覚とかちょっと最近大食いがしんどいと思っていれば「量が多くて大変なので嫌」という感じになるでしょう。
主観で意味が変わるの言葉(例えば正義とか、大変とか、簡単とかもそう)は捉え方がたくさんあってややこしい反面、その人の心や性格が少し見えるので良いきっかけになるかもしれません。
その2:「見る」の意味
同居人B:「ちょっとお鍋見といてー!」
これはよく見かけるものなので、そのオチも知っている人も多そうですね。
これは、同居人が料理中に台所を離れないといけなくなり、近くにいた人に「ちょっとお鍋みといてもらえる?」と声を掛けたというものです。そして、同居人が戻ってくると、見事に鍋の料理が焦げてしまっています。そこで「見といてっていったよね?」と詰め寄りますが、その人は「うん、だから見てたよ」と応えるというやつです。
もちろんこの時の「見といて」とはただただ「見ている」だけではなく、料理が焦げないように火事にならないように「見といて」という話なのですが、鍋を焦がしてしまった同居人にはそこまでの意味は読め取れなかったということですね。
前回の言葉の機微のお話に通じますが、この「みる」という単語も「見る」「観る」「視る」「診る」「看る」などいろんな漢字でニュアンスが異なります。これは英語でも「look」とか「watch」とか「see」とか、もう少し難しい単語になると「stare」とか 「gaze」とか「glance」とかそれぞれに微妙に意味が違います。なので、前回の言葉の機微のアンテナを育てていると、「お鍋見といて」も「単純に視線を送る」=「見る」だけじゃなくて、「料理を焦がさないようにしっかり見ておく」という意味を捉えることができるようになってきます。
「些細な違いなんていちいち覚えてられない」と思うかもしれませんが、すべてを完璧に覚える必要はないですし、専門用語や社内用語など仲間内で使われる言葉はいろんな意味を含んでいることも多いので、自分が使えることばを増やしながら小さな違いを使い分けられるようになるととてもコミュニケーションがスムーズで便利になったりします。(これも「リスクとリターンはバランスが取れているもの」の一例ですね)
さて、ここまでは、単文(といってもシチュエーションが会話の材料になっています)で見て来ましたが、会話のやり取りを考えていきましょう。
その3:「大丈夫」の意味
「大丈夫」には「良い・良好」と「要らない」の2つの意味で使われますね。
(1)「良い・良好」の意味で
A:「昨日あの後大丈夫だった?」
B:「大丈夫だったよ」
(2)「要らない」の意味で
A:「これ○○にもらったんだけど、どうする?」
B:「わたしは大丈夫です」(要らないです)
(3)「良い・良好」だけど・・・
A:「しんどそうだけど大丈夫?」
B:「大丈夫」(大丈夫じゃない)
今度は同じ「大丈夫」でも小さな違いではなくて、全く反対の意味になったりしてますね。しかも真意は言葉ではなくて状況で読めないといけないので、かなり高度なコミュニケーションですね。
その4:空気を読んで使いたい言葉
例えば、同じ「私はチーズケーキが嫌いです」という言葉も、シチュエーションによって大きく印象が変わります。
(1)普通の質問の答えとして
A:「食べ物の好き嫌いはありますか?」
B:「私はチーズケーキが嫌いです」
(2)たとえ事実だったとしても
A:「今みんなで食べようと思ってチーズケーキ作ってるのよ」
B:「私はチーズケーキが嫌いです」
この2つの場面では、同じ「チーズケーキが嫌い」の文も、その受け取る意味は全然変わってきます。(1)の場合は、単に質問に答えただけなので自然な受け答えですが、(2)の場合は、単に事実を伝えただけでなく、相手がみんなのためにと頑張っている行為にケチをつける、相手の気持ちを全然考えられないなどの無神経さが伝わってしまいます。
もちろんこれを「本当のことを言ってるだけなので私は間違ってない」という考え方もあると思います。文脈によって意味が変わるなんて面倒くさい、受け入れられない、よくわからないということもあり得るでしょう。でも、そのままの姿勢では無神経な人と思われてしまうだろうし、そうすると無神経に傷つけられるリスクを持たれてしまうので、周りから人が離れていってしまう可能性が上がってしまいます。
だから、前回のことばの講義で扱ったような言葉の機微のアンテナを立てるあたりからトレーニングを積んでもらうのも良いかと思います。そのトレーニング方法としてお薦めなのは、いろんな人間関係を経験したり、ドラマや演劇、コントなどを見ることです。言葉のやり取りを楽しみつつ、その感性を日々磨いてみてください。
最後に、最近口コミサイトで面白いなと思ったものを一つご紹介します。
その5:レビューサイトで
ビーフシチューのレビューで 「肉はスプーンで切れない、野菜は少ししか入ってなくて煮込まれた形跡もない」と書かれ、低評価がされているものがあったのですが、それを見た人が「それはきっとおいしいやつだから食べてみねばと思った。 ありがとう低評価の人。 お店にとっては災難だけど、大丈夫、わかる人はわかってくれるはずだから元気出して。。」というようなニュアンスのコメントしていました。
これも、同じ言葉だけど、低評価にもなりますし、分かっている人には高評価の可能性を感じ取れるものということになりますね。
・終わりに
このように、ことばは発信者も受信者も含めて、状況とかによって受け取るものは全然変わってきたりもします。コマーシャルや政治家の発言とか、詐欺師なんかの手口でもよく聞きますが、受け取り手が勝手に都合よく勘違いさせて、商品を購入させるとか、投票させるとか、お金を奪い取るとかいろんなことが仕掛けられていることは日常的にもたくさんあります。
現代文の学力だけというのであれば、相手が何を伝えたいと思っているのかを考えながら、予測しながら話を読み進めていけば、必ず成績は上がってくるでしょう。人生を、となるとさらに言葉に対しての感度が上がれば、良くも悪くも違った景色が見えるようになると思います。
いずれにしても「はじめに言葉があった」と言われるように、言葉はとても奥深いものなので楽しんで学びを進めていただければと願います。
ということで、今回は話の流れ、という話から複数の文章について軽く触れてみましたが、複数の文章は「国語」で扱っていこうかと思っています。なので、次回からは「単文を読む」ということをさらに深めていきたいと思います。
(サムネにはfirefly(adobe)を使用しています)