「ことば」第2回:話者の伝えたいことを表現する

前回(「ことば」第1回:ガイダンス)では、書き言葉に慣れる重要性から、書き言葉から得るイメージの違いについて少し考えてみました。これです。
・ 私は物を受け取りました
・ 私は荷物を受け取りました
・ 私は玄関先で荷物を受け取りました
・ ついに私は玄関先で荷物を受け取りました
ことばの違いやことばで情報を足すと、受け取るイメージが変わる。そして、そのことばによってことばを受け取ったそれぞれの人が頭に浮かべるイメージが近寄ることを確認しました。

今回は、そもそも使う言葉はもちろん話者が選んでいるわけで、だから、話者が伝えたいこと⇒それが伝わることばを選ぶ⇒みんなに同じイメージが伝わることが理想なんだけど、それがとてつもなく難しいってことを確認したいと思います。

具体的には、
「同じイメージでも表現の仕方は無数にある」ということと
「情報がたくさん増えると表現が変わる」の2点について見てみたいと思います。

同じものでもいろんな表現の仕方がある

ということで、前回の文章をもう一度見てみましょう。
・ 私は物を受け取りました
・ 私は荷物を受け取りました
・ 私は玄関先で荷物を受け取りました

これはどれも、こちらの絵の情報を文字にしたものです。前回は私が勝手に文章を考えて、伝わるイメージの違いを確認してもらいました。

でも、「この絵のことを文字で伝えてください」と言われれば、上の表現以外にも文章は作れますよね。いくつか考えてみましょう。(もちろん、突然1枚の絵を見て文を作るだけなので、話の流れとかもなしで、絵から読み取れるものならどんな文でもOKです。)

・ 注文していた荷物が届きました。
・ 荷物を取りに出たらオートロックで締め出されました
・ 部屋の片づけがなかなか進みません
・ 黙々と引っ越し作業を続けています。

1つ目の文章は主語と目的語を入れ替えただけですが、私が受け取ったことをメインにするか、荷物が届いたことをメインにするかで、言葉から受け取るニュアンス=話者が伝えたいことが変わることを意味します。他の文章になると「荷物が届いた」「荷物を受け取った」という主旨ではなく、伝えたいことがもっと変わってきます。
2つ目の文章なら「締め出されて」「トラブルが発生した」ことだし、
3つ目なら「日常あるある」で「気合を入れてほいいのか」「言い訳をして許してもらいたいのか」はたまた全是別の意図があるのか、
4つ目なら「普通は引っ越しは新生活はじまるのでウキウキしそうなもんなのに、黙々と無感情無表情な様子から何があったの?」とか。
どれも同じ絵から連想できる言葉だけど、使う言葉によって全然違うイメージで受け取ってしまいますね。

このように1つのシーンを見ただけでは、その情報はいかようにも受け取ることができるものです。なので、自分の伝えたいことを受け取ってもらうためには、
(1) イメージを伝えるために必要な情報はしっかり盛り込む
(2) 1文ですべては伝わらないので、話の流れ・前後の文脈も大事
の2点は少なくとも必要になります。

(2)は「国語」の講義の中で扱うので、この「ことば」の講義では(1)の盛り込まれたイメージをしっかり受け取るというところを主眼に置いていろいろお話をしていければと思っています。

情報がたくさん増えると表現が変わる

ということで、今回のもう一つのテーマを考えていきたいと思います。こちらは先ほどの「話の流れが大事」に触れる内容ですね。
先ほどのいらすとやさんのイラストをもう一度見てみましょう。

そして、この絵に情報を増やしていこうと思います。今回は「宅配」の方向で適当に意味を足してみます。

(追加の情報)
この間ネットでポチったものが届いてしまった。配達完了メールが届いていたので外に出てみると置き配がされていた。このご時世なので人との接触を極力減らすために置き配なるものが行われるようになった。まぁ再配達の大変さを考えるとこういう仕組みもありだと思うし、これから安全性とかも含めてもっといい感じの仕組みが整えられていくんだと思う。ただ、私は人との接触も大事だと思うので少し寂しく思うところもある。寂しい気持ちとともに、そういえば勢いで買ったもので、改めて考えるとあんまりいらないものなので、また無駄なものを買ってしまったという後悔が合わさってしんどくなってきた。とりあえず現実を直視しないように無になって荷物を持ち上げた。

このぐらいの情報が足された場合、1文でこの絵を説明するとするとどんな文章が書けるだろうか。いろいろ書いてみよう。タイトルつけると思うと気を楽に筆を進ませることができるかもしれない。

・ 置き配の味気無さと無駄遣いの後悔で感情が殺された話。
・ 勢いでネットで買い物をするとろくなことにならない。
・ 置き配という新しい生活スタイルってどうなんだろう。

一応足された情報にはあまり意図を込めないように、バランスをとったつもりですが、それでも読み取ろうと思うといろいろなものが読み取れます。
例えば、1文目の「届いてしまった」という表現には、「届いた」ということばをわざわざ「届いてしまった」と言っているわけなので、ここにはすでに「いらないものを買った後悔」が少しにじんでいますし、
最も文字数を使っているのは、置き配についてのことなので、そのあたりが話者の言いたいことなのかしら?とかとも読めます。
いずれにしても、情報が多いといろんな角度で文章を作ることができるようになります。

結局のところ、何を伝えたいかによって、文章は変わってきます。すべてを丁寧に説明して話者と聞き手がきっちりイメージを合わせることは不可能ではないかもしれないですが、そのためには膨大な文章が必要でしょうし、それをやる手間に意味はありません。かといって端的に伝えようとすると話者には言葉選びのセンス、聞き手には理解力が求められます。(どんな言葉でどんな文章で伝わりやすく伝えるのかはセンス。磨きたい)

という感じで、文字で情報を伝えるのは難しいけど面白いみたいなところが伝わればと、2回で文章とはみたいな全体感のお話をしてみました。
自分で文章いろいろ作ってってなるとまだ意識しやすいので、他にもいらすとやさんのページを見ながらいろんな画像で適当に文章作ってみてほしいです。誰に公開しないで良いので気楽に自由に。そしてそれが読み手にどう受け取られるかの可能性をいろいろ考えてみてください。
地道な一歩一歩があなたの言葉のセンスを磨きます。

(サムネにはfirefly(adobe)を使用しています)

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