「ことば」第11回:どこまで知識をつけても、分からない言葉は避けられない

いよいよことばの講義も最終回です。
文章を読んでいると、どれほどたくさんの単語を覚えたとしても分からない言葉に出会うことはあります。なので、ことばの講義の最後にそういう時にどうすればいいのかのヒントを今日つかんでもらえると良いなと思っています。

文章を読む心構えとして

何度か書いていますが、一番大事なのは文を読む心の姿勢です。文章に対する気持ちの方向みたいなものです。言い換えてみれば、しっかり興味や関心を持って読み進めているかどうかです。
例えば「ことばとはサクラのようなものです」という文章を読んだときにどういう気持ちになるかということです。「意味わからんしどうでもいい」「読むのめんどくさいな」「読めばいいんでしょ」「まぁそう感じる人もいるのでは」みたいな感じで、文章に後ろ向きで接したり、歩み寄ろうと思わない読み方では文字からより多くの情報を得ることができません。この場合は「どういうこと?」「どういう感性?」みたいな感覚を持ったりや、「なるほど、それで?」とさらに一歩踏み込んで興味を持ったりできる人は、よりたくさんの情報を獲得することができるでしょう。
感覚や興味を持てるかどうかと言う話ですが、脳はすぐクセづくものだったりもするので、まずは意識的に「どういうこと?」「なんで?」「それでそれで?」みたいな疑問文を頭に浮かべながら文字を読んで、徐々に習慣にしていくと少しずつクセづいていくと思います。

ということで、今日はそんな風に文章を見ていけば、文章の先が読む前に予測できたり、分からない単語に出会っても何とか戦える道が見えるかもしれません、というお話です。

1.文の先を予測する

1文で考える

文頭の単語を見るだけで続きが読めてしまうというか、文法的に決まっているものをまずは見ていきましょう。呼応の副詞といいます。
例えば「まるで」ということばで話し始めようとすると、続きは「~のように」という感じで比喩表現につながっていきます。そして、その後ろに自分が伝えたかったことを続けていきます。「その瞬間彼は、まるで昨日今日生まれたばかりの赤子のように疑いのない笑みを浮かべた」、この場合の「疑いのない」はそこまでの流れ、物語がないと分かりませんが、比喩表現を使ってでも蔦泰何かがあるということは分かります。

他にも、「もし」とくれば「~だったら」「~だとしても」のような仮定の話、もしもの話が続くでしょうし、「たぶん」とくれば「~だろう」と続くことは分かるでしょう。
このような頭と後ろの言葉の関係を「呼応の副詞」と言います。

ただ、ことばは時代を経てどんどん変わっていくものです。なので、この呼応の副詞も昔決められた使われ方と違う使われ方をしているものもあります。

代表的なものは、「全然」{~ない」というものです。文法的には「全然」とくれば「~ない」と打ち消しが来ることになっているのですが、今では「全然」「大丈夫」や「全然」「いける」など、肯定表現で呼応している場合もよく見かけます。(「全く」とくれば「~ない」じゃないと違和感があるなら、文法的な感覚は残っているかもしれませんね)
他にも「絶対」「~だ」など断定や宣言をするための「絶対」という強い言葉が来ているにもかかわらず、「絶対」「大丈夫だと思う」のように、100%断言するように見せて、文末であくまで自分の考えとしての推測みたいな立ち位置がはっきりしない、逃げ道を残すような文章も今っぽいですね。
「まさか」も「~しないだろう」などと打ち消しの推量を導く言葉ですが、「まさか」「昨日やっちゃった?」みたいな使い方も良くしますね。こちらは、「まさか」(してないと思おうけど)「やっちゃった?」のように省略されている部分がある形ですね。

他にも呼応の副詞はいろいろあります。
「おそらく」とか「決して」、「よもや」などときた場合、あとにどんな言葉が続くでしょうが。自然と身についているものもあると思いますし、ほとんど同じ使われ方をする言葉もありますので、少しずつ積み上げていってもらえるといいですね。
・「少しも」「 ~ない」:打消し
・「よもや」「 ~まい、~ないだろう」:打消し推量
・「たとえ、仮に、もし」「~なら、~たら、~ても」:仮定
・「決して」「~してはならない」:禁止
・「ぜひ、どうか」「~してください」:願望

文脈で展開を予想する

1文で先を予測できることはなかなかないですが、文脈やシチュエーションなどが整えば、先が読めることがあります。そしてそれは、鍛えることで精度が上がっていくものでもあります。

例えばあなたが「付き合ってください」と言った告白のシーンをイメージしてください。そしてしばらくの沈黙ののち、相手が「あなたはとてもいい人だと思う」ということばからお返事をし始めたとしたらどうでしょう。

今はこの情報しかなくそこに至るまでの物語が全く見えないのではっきり決まるわけじゃないですが、個人的には「多分断られるんだろうな」と思います。「これは多分相手を傷つけないためのやさしさのワンクッションだ」と思ってしまいます。ただこれだけの情報しかないので、これまでの個人的な経験とか自信のなさとかからの結論でしかないですが。これにいろんな情報が足されていくと。もっと先を読む精度が上がっていくことでしょう。
この個人的な経験というのはもちろん実体験だけではなく、本などを読んでいたり、ドラマやトーク番組、漫才やコントなどのお笑いを見たりする中で少しずつ蓄えられてきたものです。それらの積み重ねによって「この流れならこういう内容が続いていくんだろうな」と予測できることはたくさんあります。
またそこまでにより多くの情報を獲得できるほどのに読解力が上がれば、その精度もどんどん上がってくるので、文章を読むスピードも正確性も向上できます。このあたりの続きの話は「国語」の講義でできればと思います。
今できることは、日常のいろいろなものに「この流れは次こういう話になるのでは」とか「そうなら次の言葉は〇〇で始まるんじゃないか」とか予測しながら文章を読んだり、トーク番組を見たり、人と話したりしてみてください。

2.意味の分からないことばを予測する

ここからいくつか意味が分からないかもしれない言葉を含む文章を挙げてみます。
1文で受け取れる情報をできるだけ探ってみてください。

イッチはまたしても大きなチャンスを逃してしまった

この文章から分かることは何だろうか。一つはイッチというのは主語で「逃した」という動詞につながっているから、たぶん生き物ではあるんだろうなということ、もう一つは「またしても」から以前にも大きなチャンスを逃していたんだろうということなので、このイッチはチャンスには恵まれるがものにできない、失敗しがちだということ。この2点ぐらいしか読み取れないですね。

※イッチ:ネットの2ちゃんねる(現5ちゃんねる)用語。スレッドと呼ばれる掲示板を自分が語りたいテーマで立てた人。自分で掲示板を立てて1言目のコメントを自分で打つため、1番からイッチと言われる。

1980年代、産業構造が重厚長大型から軽薄短小型へとシフトするなかで、「お母さん」と「ママ」の構図にも変化がもたらされた

産業構造は文字通り、産業の構造ということで、社会の産業(農業、林業、水産業、工業、サービス業など)がどのような割合で構成されているかということです。
この続きに「重厚長大」とか「軽薄短小」とか書いてます。よく分からない単語が連続して出てくるとそれだけで気持ちが重たくなって読むのをやめてしまいそうになりますが、分かってしまえばこちらも文字通りで難しい話ではありません。これは工業(ものづくり)をイメージしてもらえると分かりやすいと思います。「重厚長大」は「重くて厚くて長くて大きいもの」、「軽薄短小」は「軽くて薄くて短くて小さいもの」ということで、鉄をたくさん使うような大きいものから、パソコンやスマホのような小さいものを作るようになっていったということです。
この流れは今でも続いていて、「大は小を兼ねる」とか「大きいことは良いことだ」みたいな価値観から、さらに一家に一台とか一人一台ということすらも通り越して、「ミニマリスト」とか「所有からシェアへ」みたいな価値観になっていっていますが、こういう流れの延長線上にありそうですね。

ここでは、ヒジャブやブルカ、ニカブなどをまとめてヴェールと呼ぶこととします

「ヒジャブ」が何かわからない。「ブルカ」とか「ニカブ」とかも分からない。分からないものが続きますが、よく見てみると並列で書かれています。以前どこかで取り上げたように「きたあかり」も「インカの目覚め」も「男爵」も「メークイン」もじゃがいもだったように、このヒジャブやブルカやニカブも同じようなものであることは分かります。
また、それらを合わせて「ヴェール」と呼ぶとのことなので、さっきの「インカのめざめ」「きたあかり」「男爵」「メークイン」-「じゃがいも」みたいな抽象-具体の関係っぽいですね。そしてこのヴェールというものが、結婚式のときに新婦の顔を覆ってる布のことをヴェールと呼んだり、よくわからないものを「ヴェールに包まれる」みたいな表現をすることだったりが思い浮かぶと、ヒジャブもブルカもニカブも何かを隠すものなんじゃないかと言うところまで予測できるかもしれません。

修理固成は天の神様達が伊邪那岐命と伊邪那美命に対し、海月のように漂っている状態だった国土を整え固めなさいとお命じになったという、古事記の冒頭に描かれている伝承の言葉です

とても難しそうな文章です。分からなそうな言葉がたくさんです。
今回は「海月」について考えたいのですが、それ以外の難しそうな言葉の処理を考えましょう。
まず「修理固成は」「伝承の言葉です」というのが文章の中心なので、この修理固成は言葉、たぶん四字熟語だということがわかります。「修理して固めて成る」ぐらいで置いておきましょう。続いて「伊邪那岐命と伊邪那美命」は人物(ほんとうは神様)かな」そして「古事記」は冒頭に描かれると書いているので書籍の類でしょう。
ということで「海月」が何かを考えてみましょう。「海月のように漂っている状態」と書いているので、海月はゆらゆらかふわふわか漂っているようなものだということが分かります。そして、海か月に関するもの。ここまでこれば何かをイメージできる人もいるんじゃないかと思います。

※海月:くらげ

ショタという言葉は、『太陽の使者 鉄人28号』の主人公・金田正太郎(11歳)に由来しています

前後の文脈が無いので、結局「ショタ」が何を意味するのかは読み取れないですが、読めるところまで頑張ってみましょう。とはいっても、金田正太郎くんと何か関係があるようなことなんだろう、ということくらいしかわかりません。ただこの文章、わざわざ「(11歳)」と書かれています。となるとこの年齢もキーポイントになるかもしれないということは読み取れますが、残念ながらここまでです。
この文章に続きがあって、再び「ショタ」という言葉が使われたり、文脈からのヒントが増えたりすると、もう少し意味内容が見えてきそうですが一文ではここまでです。
このように、現代文ではよく分からない言葉で重要なキーワードっぽいものを、はっきりわからないまま雰囲気で読み進めるということはよくあります。読みながらその雰囲気を絞ってみたり確定させてみたりするスタンスは結構重要になってきます。前後の文章をヒントにしながら読み進めていくようなことは「国語」の講義でやっていきたいと思います。

ここまで全11回。とても難しい話も多かったですが、また読み返してみてもらったり、ライブ配信で質問チャット投げてもらったりしながらことばに対しての理解を深めていっていただけると、どんどん知識や知恵が身についてきますので、その一つ一つの成長を楽しみながら今後も進めていければと思います!

それでは!

(サムネにはfirefly(adobe)を使用しています)

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