「ことば」第9回:著者の感情をくみ取るために-比喩表現などなど

今回は、著者が気持ちを込めて伝えたいことは、みんなと感覚を共有できそうな、分かりそうな言葉を使います。その表現が広まって固定化されると慣用句になっていくんだろうけど、まだそこまで一般的ではない、そんな表現を見ていこうと思います。

そういう表現を「比喩表現」としていくつか紹介していきますが、慣用句ほど定着していない反面、筆者の感覚や感情をその言葉選びからも読み取ることができます。書き手の感情がダイレクトに表現されているものなので、その心を読み取れるようになれば読み間違いはかなり減っていくでしょう。
ただ一つ注意点があります。あなた自身が比喩表現を使うときに、その言葉が個人的経験にだけ基づく場合(一般的に共有されていない場合)は、相手と感覚や感情の共有ができないので、「・・・ん?」と微妙な空気が流れることになるでしょう。ですので、比喩表現の使い手にはちゃんと伝えたいもののニュアンスとみんなが持っているイメージが合っている言葉選びのセンスが求められますし、他方、読み手にもちゃんとその言葉のイメージを持っているかどうかの教養が求められます。
(マニアな仲間内であればより伝わる・ウケる言葉選びもあるでしょうが、それは特定の場だけだからこそウケる表現なので、誰を相手に伝えたいのかと受け取り手を意識するようにしましょう。)

例えば、「いつも一緒にいてむちゃくちゃ気を許しあう関係の友人同士」のことを、「気の置けない関係だよねー」と表現するのが慣用句、「パピコぐらい一緒にいるよねー」が比喩表現という感じです。このパピコを「ニコイチのアイス」=ペアという意味で使っていますが、人によっては「アイス」なので冷たい関係とか読み取る可能性もあるかもしれません。このように慣用句は意味が決まっているから楽で、比喩表現は書き手と読み手のセンスが少し必要な表現方法になります。
ということで、いろいろな比喩表現を見ていきましょう。

比喩表現のいろいろ

1:形容詞を例える

「かわいさ」のたとえ

・お人形さんのような顔  ・玉のような子
→ このあたりは昔から使われる比喩表現ですね。「玉のような」はもはや慣用句ですね。
・通り過ぎる人たちが振り返って見ているぐらい
→ ちょっと長ったらしいですが、こういうのも比喩表現です。
・白百合のような、野薔薇のような、向日葵のような
→ かわいさを(花)で例えていますが、それぞれのかわいさのイメージは違いますよね。そのあたりの機微を使えられるのが比喩表現の良いところです。
・(動物)みたいでかわいい
→ 花と同じく、動物もいろんなかわいさがあるので、いろんな動物に例えられることもあるでしょう。ぜひ、身近な人を動物に例えてみてください。
・ぐうかわ
→ ちょっと今っぽい表現も取り入れてみました。こちらは「ぐうの音もでないくらいかわいい」ということですね。「ぐうの音も出ない」が「全く反論できない:ぐぅぅとうなるしかない」という意味なので、「反論できないぐらいのかわいさ」という意味ですね。

「やさしさ」のたとえ

・心の広い人 ・器の大きな人 ・懐の深い人
→ このあたりの言葉はよく使われますし、言葉のイメージもほぼ同じですね。
・バファリン
→ 「バファリンの半分はやさしさでできている」というテレビCMの影響で、バファリン自体がやさしさの象徴みたいになっていました。
・月の光のような
→ 太陽の光に比べると、月の光は確かに弱いのでやさしいともいえるかもしれませんね。闇を照らす光でもあるので、そのあたりに意味を込めているかもしれないですね。
・怖いくらい
→ 「怖いくらいやさしい」という表現も使われますね。やさしさはポジティブな感情を想起させますが、反対に怖いと表現しているので、何か違和感があるということです。それぐらい異常にやさしいということを示している表現ですね。

このように、比喩表現とは話し手の感覚によるものが大きく、それをしっかり読み解かないといけないものです。今挙げた「かわいさ」とか「やさしさ」は言葉の種類としても結構近いので、
天使のような人、 マジ天使
みたいな表現だと「かわいい」も「やさしい」もどっちの意味でも使えそうです。こういう場合は前後の文脈でどの意味で使っているのかをつかんでくださいね。

この身の回りの物とかで例えられるようになると、フットボールアワーの後藤さんが得意ないわゆる「たとえツッコミ」ができるようにあるかもしれないですね。

2:例えの持つ力

伝えたいことが伝わるならどんな表現でもOK、というのが比喩表現だという話をしました。比喩表現は読み手にいろんなイメージをもたらすことで、納得感を増していきます。そして、世の中では気づかないうちにその表現の意図する方向に持っていかれたりするものも多いので要注意です。
この章ではそんな内容を見ていきましょう。

「あなたは希望の光です」

もしあなたがこのようなセリフを掛けられたらどう思うでしょうか。まんざらでもないと思って張り切ってしまったりする人もいるんじゃないでしょうか。
この表現は、助けて欲しい時の表現ですが、①あなたを頼りにしていること、②絶望の時間が長かったこと、③ほかに頼れるものがないことをまとめて表現しています。いや、もうすでに、ようやく表れたあなたにすがっている感じもする表現です。
ただの助けじゃなくて、救世主が現れ、さらにそれをと表現することで神格化したような、かなり持ち上げる表現ですね。

この言葉に気をよくして、「じゃあ俺に任せておけー!」とか「ほっとけない」っていう気持ちが盛り上がったりそうな表現です。うまく乗せられて後悔しないように注意してくださいね。

「自然が悲鳴をあげている」

環境破壊に反対する場面でよく見る表現です。「自然を壊さないで」という訴えを効果的にするために自然を擬人化させているうまい表現です。このように擬人化して「木を切られる」=「腕がもがれる」とか「心がえぐられる」とか人間自身が理解可能なイメージに引き寄せることによって、一層の共感を誘うというか、そちらに誘導することばですね。
私も自然は好きだし、なんならできるだけ自然に生きて自然に死にたい人なのですが、いろんな活動を見ていると言葉も行動も正義が過ぎるがゆえにやりすぎているものもよく見かけます。自然は大事だと思うのですが、過剰すぎる表現にはちょっと・・・ってなってしまいます。

ともあれ、こういう感じで、ことばによって人は良くも悪くも動かされます。なので、このような人をコントロールするような表現はいろんなところで使われています。商品を売るためのCMもそうだし、政治家たちの発言もそうだし、いろんな活動家のPRだってそうですので、日常生活のいろいろな場面から探してみてください。

3:励ますときの例え

「止まない雨はない」「明けない夜はない」

「今はつらいけど次はきっといいことがある」という励ましのことば。この言葉に希望を見出す人もいれば、「そうは言っても今がつらいんだ」となる人もいるでしょう。今日は各人のお悩みにより添える場ではないので、この2つの表現について考えていきます。
この2つの表現が使い分けられているところはほとんど見ないですが、やっぱり少し違うイメージを読み取ることができます。「止まない」と「明けない」はそれぞれ「雨」と「夜」に引っ張られているものなので、この「雨」と「夜」、この辛さ自体の表現の違いがあります。
雨:涙をイメージさせるのと、浴びる=自分に向かってくるイメージ。動的なイメージ
夜:暗く何も見えない状態。何も考えられない感情も死んでいるぐらい。静的なイメージ
あえて言葉にするとそんな感じになるでしょうか。この言葉の機微を感じられますか。このイメージを使い分けられると、一層正確な感情が相手に伝えられるように表現できるようになりそうですね。

4:気持ちを伝える例え

「月がきれいですね」

こちらはとても有名な一節です。
夏目漱石が「I love you.」の訳語を問われた時に、日本には「愛している」という表現を使う文化がなかったので、「月がきれいですね」ぐらいで訳しておけばいいみたいな話をしたという話が残っています。
これはなかなか味がある表現ですね。お互いが「月がきれいですね = このきれいな景色を共有している時間や状況、相手を大事に思っている心 = I love you.」だと認識していれば、いろんな情景が浮かんでロマンチックな感じにもなるかもしれません。しかし、話し手だけがこの意味を知っていて、相手が知らなければ「は?」となって気持ちは届かないかもしれません。

比喩表現とはこんな感じで、自由に自分の感性で、相手に受け取ってもらえる範囲を探りながら使っていける表現でとても面白いものです。挑戦的な表現もとても楽しいものですが、初めはお互いに意味がつかめなくて「え?」「え?」「・・・」(気まずい)みたいな事になるかもしれませんが、それはそれでOKとして、言葉選びを磨いていってもらえると良いなと思います。

(サムネにはfirefly(adobe)を使用しています)

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