「ことば」第6回:細かな感覚を身につけるために-類義語・似た意味の言葉(単語・熟語part3)

前回は、対義語の話から「二元論って分かりやすいけど、それゆえに見えなくなるものもあるよ」という話をしてたらかなり長くなってしまったので、今回はさっそく類義語などについて迫っていこうと思います。

(2)類義語・言い換え・言葉の機微

2-1:前回出てきた類義語

類義語は前回の話の中でもたくさん出てきていました。例えば、類義語という言葉も、同じ意味の言葉(同義語、類義語、同意語)という表現で出てきましたが、この「同義語」「類義語」「同意語」というのはどれも「同じ意味の言葉」という意味ですので、同義語です。

前回のテーマだった対義語の「対義」という言葉にも類義語があります。「義」という字には「正しい道筋」のほか、いろいろな意味がありますが、ここでは「意味」や「主旨」という意味「対となる-意味」ということなので、「対照」や「反対」、「反意」などが対義の類義語になります。
(対義の類義って頭がややこしくなりそうですね。)

「義」にもいろいろな意味があるように、漢字や熟語にはたくさん意味があり、どの意味で使われるのかは場面や文脈によりますので、日常的に「あっこれと同じような意味も」とか、言葉の知識を積み重ねていくのが良いでしょう。

知識が身につく様子は雪玉に例えられます。知識の雪玉は最初は小さいので1回転させてもそれほどたくさんの雪(知識)がついてくるわけではありませんが、雪玉は大きくなるにつれ、どんどん身につく知識の量は増えていきます。

2-2:言い換え

類義語とは少し違いますが、同じような言葉を表せる表現方法もあります。前回の対義語のところでも出た「抽象-具体」を考えてみましょう。

じゃがいもはばれいしょとも言われ、古くは男爵芋やメークイン、最近はインカのめざめやきたあかりなどの品種も有名です。

ここに書かれている「じゃがいも」も「ばれいしょ」も「男爵」も「メークイン」も「インカの目覚め」も「きたあかり」も全部じゃがいもということになります。

文章に書かれている通り、「じゃがいも」と「ばれいしょ」は同じ。そして、「男爵」や「メークイン」「インカのめざめ」「きたあかり」もどれもじゃがいもの品種ですね。それぞれの品種はじゃがいもやばれいしょの具体例ということになります。

さて、抽象-具体のお話に行く前に、現代文としての視点でこの文章を読んでみましょう。
この文章を読んだときに「なんでわざわざたくさんの品種を挙げているんだろう?」と思わない合ったですか。そこに気づいていると、「あぁ、この人はこれから細かいじゃがいもの品種について話したいんだな」ということが読み取れます。
このように、文章自体を見ることで、その先にどのようなことが書かれるかを予測することができます。そして予測できると、文章を読むのは楽にもなるし早く正確にもなります。このあたりも意識して読んでみると現代文の成績は上がってきます。

ということで、今回の本題に戻ります。抽象と具体についてです。
この文章を抽象と具体で分けるとこのようになります。
具体例:「男爵」「メークイン」「インカのめざめ」「きたあかり」
抽象例:「じゃがいも」「ばれいしょ」

この抽象とか、具体とかは単語によって決まっているものではありません。何と何を比べるかによって抽象的とも言えるし、具体的とも言えるものです。
例えば、この「男爵」「メークイン」「インカのめざめ」「きたあかり」を少し抽象化すると「じゃがいも」「ばれいしょ」だし、それをさらに抽象化すると「いも類」だし、さらに抽象化すると「野菜」。さらに抽象化すると「農産物」という感じです。逆に言うと、「じゃがいも」「ばれいしょ」も「いも類」「野菜」「農産物」などの具体例ということになります。
<抽象度が高い>
↓ 農産物
↓ 野菜
↓ イモ類
↓ じゃがいも ばれいしょ
↓ 男爵 メークイン インカのめざめ きたあかり
<具体度が高い>

この抽象-具体の対比は文章でよく使われます。それは抽象的な話では伝わりづらいことであっても、具体例で語られると個人の実感として理解してもらえる可能性が上がるからです。
でも、分かりやすくなればそれですべてが良くなるというわけではないです。ここにジレンマがあります。具体例を話すとなると自ずと文字数は増えます。文字数が多くなると、分かりやすくなるけど全部読んでもらえないリスクが上がります。文字数が少なくて読んでもらえるけど理解してもらえないかもしれないほうが良いのか、文字数が多くて理解もしてもらいやすいけど読んでもらえないかもしれないほうが良いのか、難しいところです。

2-3:言葉の機微(細かな違い)

次は、同じ読みでニュアンスが違う言葉を見てみたいと思います。

「かえる」という動詞と言われればどのような漢字を思い浮かべるでしょうか。
「変える」「換える」「替える」「代える」など今は変換を使えばたくさん出てくることでしょう。この「変換」も「変える」+「換える」ですね

同じ「かえる」という読みで、同じような意味。これらは何がどう違うのでしょうか。
・変わる:状態や位置が前と違ったものになる。ふつうと異なる。
・代わる:入れかわる。他のもののかわりとする。
・替える:別のものに取りかえる。
・換える:物と物とを取りかえる。
・更える:今までのものをすべて新しくする。

どれも同じような意味だけど、微妙に違う。この微妙に違うのニュアンスが分かるかどうかは地味ですが結構重要です。違いに気づけるということは、それだけ細かいところまで見ることができることになります。この言葉に対する感度は大事です。

こちらも別のたとえ話をします。山道を歩いているとして、何の感度も無い人はただただ道をあるくことでしょう。しかし、木々についての知識がある人は草木の名前やその使い方、季節感などをより感じることができるでしょうし、動物や昆虫の知識がある人はフンや死骸などを見ながらその山の生態系に思いを馳せるでしょうし、地学の知識がある人は山の成り立ちや地層、植生などを見ることができるでしょう。このように、感度があるかどうかでモノの見え方はものすごく変わるものです。

他の言葉でもその違いを考えてみましょう。よく使われる「きをつかう」はどうでしょうか。
「気を使う」と書くでしょうか、それとも「気を遣う」と書くでしょうか。
これも「(物とか手段を)使う」と「(精神や技術を)遣う」で意味が異なります。
この違いを知っていると、「気を使う」と言われたら違和感がを持ってしまいます。
※ ただ、言葉は人々が話すことで変わっていくものです。なので、今は「気を使う」という表現が一般的になってきています。言葉は変わるものだし、簡単になる・分かりやすくなることは良いことなんでしょうが、少し複雑な気持ちになりますね。

その他によく見るのは、関西弁ですが「ほんまに」という表現ですね。「ほんとうに」という意味ですが、この「ほんまに」を「本間に」と打つ人も結構いらっしゃいます。「ほんとう」という意味で「本当」とか「本気」とか使うので、この「本」の字に引っ張られて変換機能を使ってしまったんでしょうが、もともとは単純に苗字としての「本間」さんだったんでしょう。

あとは動詞だと「みる」とか「よろこぶ」とか、
普通の言葉で似てるけど微妙に違う意味があるという意味では、
・「節約家」「倹約家」「貧乏性」「ケチ」の違い
・「公正」「公平」「平等」の違い
などの言葉の違いをしっかり知っていれば言葉への感度は相当上がってくると思います。

言葉はもともとの意味を一回知ってしまったら、それとは違う使い方をされていたら、違和感に気づいてしまうようになります。そうなるといろんな言葉の違いに着目できるようになっているということなので、後は先ほどの雪玉のたとえよろしく言葉のセンスがどんどん上がっていくでしょう。

次回は、同じ言葉でも文脈によって意味が変わることばを具体的に見ていきたいと思います。

(サムネにはfirefly(adobe)を使用しています)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA